オヤジの闘病回想記

ブログ「猫と杖とキャンピングカーと」に登場する1956年生まれのオヤジが約40年前に大怪我をし、躰の自由を奪われ人生観が激変、現在に至るまでの葛藤を綴った記録です。

「前例がない」だけど

ベッドでリハビリを受けはじめ1ヶ月位すると、両肘、手首の屈伸は大分柔らかくなり、全身に感じていた痛み痺れも、馴れてきたのか日々を追うことに少し変わってきた。

その頃、ただベッドに横たわり移植した骨が上手く固まるのを待つしかなかったが、左手の小指が僅かに動かせる事に気が付き、治癒力で回復傾向にあるのでは無いかと勝手に思いこみ、懸命に手脚を動かそうと力んでいた。
ただ実際は小指だけが動き、他の部位は不動でした。

それでも小指が少し動かせる事をF氏や理学療法士のM氏に伝えるが「そこまでです」と、私の期待を打ち砕く回答しか返ってこなかった。

想定内の回答であったが、医学的根拠は無いが私の中では何かが変わった気がした。いや変えようとした。

左手の小指が動き始めた頃、隣のベッドの境にあったカーテンが開けられ、私はコルセットを装着し仰向けのまま、若い頚損患者K氏と少し話すようになった。
彼も事前に頚損の私が入院してくることを聞かされていたらしく、その時の様子を一部始終見ていたそうだ。
彼はハローベストは知らなく、彼曰く、頭にリングとボルトで首を固定している格好を見てビックリしました。とのこと。

彼は、16歳の時、友人のバイクの後ろに乗っていたときに事故に遭い、頚椎5~7番を損傷したらしく、首を牽引し固定し2ヶ月位で骨が固定したらしく、それからリハビリを開始し8ヶ月位経った頃だった。
今ではベッドを80度位起こし、特殊なスプーンとフォークで食事が出来るようになったとも言っていた。

K氏は車イスで院内のリハビリテーション室に行くのが日課であった。
看護師さんの助けはいるが、自分で移動できるK氏が羨ましかった。

私は懸命に左の小指だけでなく両手両足の指を動かそうとベッドでもがいていた。動いてはいないが
それだけでも額や首筋にうっすら汗が出る。

リハビリはベッドでM氏が日曜日以外は決まった時間で受けていた。

左手の小指が動くようになり親指も少し動くようになり、人差し指を除き徐々に軽く拳が握れるくらい動くようになっていた。
右手は開くことは出来ないが、軽く拳を握ることが出来るようにもなってきた。
自分の中で回復してきているのでは・・・
期待が高まる。F氏の回診やリハビリのM氏に確認してみる事にした。

回診当日にF氏とリハビリのM氏にそのことを伝えるが「前例がないので、ここまでです。」と、二人とも申し合わせたかのような回答であった。
う~ん。なんだかな?という思い。

前例がない。確かにそうかも知れないが、私の中では、Dr.ノウィッキーの言葉が唯一の支えであった。
「この患者は最終的には松葉杖など使い自立歩行が出来るようになる」と言っていた事が。


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