ほろ苦い思い出
転院を2日後に控えた朝に何時もの検温、清拭を終えると検温を担当していた看護師さんがやってきて、耳元で「手紙」と小さな声で囁いた。
「えっ」と思った。
彼女を見ると、顔は微笑んでいたが耳たぶが真っ赤になっていた。
数日前に枕元に置いてあったその手紙には励ましの言葉や心温まる言葉が書きした溜めてあったのである。
要約すると、私が移送されてからリハビリなど頑張っている姿に、時には看護師として励まし、時には1人の女性としてして好意を持って励ましていました・・・
退院し違う病院に転院されることを知り嬉しい反面、会えなくなるのが寂しくなります・・・
と告白するものであったが、差出人が不明で見当もつかなかったので、モヤモヤしていたのであった。
差出人が判り私は彼女を見ながら少し動揺して「ありがとう、色々励ましてくれて・・・」と言うのが精一杯の言葉だった。
彼女にしてみれば「差出人は私です」という事を伝えたかったのと、手紙の返事を聞きたかったのであろうと推察したが返事は即答できず、入院の思い出になってしまったのである。
この時は、退院し復職できるかどうかも判らない状況と自分自身でも不安がつきまとっていた躰で恋愛は頭の片隅にもなかったのだった。
しかし、この時はそのことを上手く伝えることが出来なかった。
私より2歳ほど年下の彼女が起こした行動や心情を思うと、ありがたい気持ちであったが、それ以上には、どうしてもなれなかったのである。
転院間近のほろ苦い思い出として、そっと閉まっておくことにしたのだった。。